ヒトとプランクトンと潮の満ち引きと。

2019.03.05


大浦湾には、沖縄本島で最大級のマングローブがあります。
マングローブは木の名前ではなく、海の水と川の水が混じり合う汽水域に生える植物群のこと。
陸と海の境界にある個性的な生態系です。


ここに全長726m、バリアフリーの大浦マングローブロードがつくられました。
潮の満ち引きを見ながら、遊歩道を散策したり、カヤックに乗ることができます。
川は真ん中ほど中州になっていて、満潮でも大人の腰の高さくらいにしかならず、波や風の影響を受けにくい。これまでに最年少2歳から90代のおじいさんまでがカヤックに乗っています。

東海岸だからこその夜明け前に海に漕ぎ出していく朝日ツアー、夜は夜行性の生きものたちや星々を観察できるナイトマングローブツアーもあります。


ガイドの仲村晋さんといっしょに、大浦川の河口から上流のほうに向かって歩きました。

仲村さんが、まず河口で一言。

でっかい葉っぱが浮いてるなーって思ったらイカだったり、なんかいるかなーって見てたら、大きめのヒラメが泳いでたりしますね。イカも近くまで見に行ったらじーっとこっち見てるんですよ。満潮になったら海からエサを食べにくるんです。


この時は満潮でしたが、潮がひくと、アーサ(アオサノリ)が緑のじゅうたんのごとく広がります。その緑に映えてよく見えるのが、カニの仲間で、片方だけが大きなハサミをしきりにふるシオマネキです。

シオマネキは大浦には4種類いて、それぞれすみかが決まっています。ヤエヤマシオマネキの稚ガニは、自然界にこんな色あるの?! っていう色をしてるんですよ。私自身は名護の市街地の生まれなんですけど、母親がこのあたりの大川という集落の出身で、ちょうど戦争が終わった頃に生まれたので、学校の帰りにここに来て、おやつにシオマネキのツメをとって殻むいて食べたそうです。甘エビみたいでおいしかったそうです。ツメだけとって、からだは逃がすんです。そうしたらまた再生して生えてくるので。


コメツキガニも個性的です。

ビー玉くらいのカニで、ぞろぞろ群れになって歩きます。カニのくせに前に歩くんです。人が近づくとくるくるくっと回転しながら砂に隠れていくんですけど、そのまわりかたが左回りに3回転半らしいです。で、わんさか大浦パークのソフトクリームも左回りに3回転半でつくってるんで(笑)、ぜひ歩き終わった後に。


うまい!つかみの後、何かがぴょんと跳ねた水音がしました。

ボラの子どもですね。こんな風にいろんな気配がするんですよ。よく子どもたちをガイドする時には、猫の気持ちになって自然体験しましょうって言います。猫はそばで何かカサカサ物音がしたらハッて振り向くし、手がパッと出ますよね。そういう風にキョロキョロして歩きましょうって言ったら、子どもたちはニャーニャー言いだします(笑)


やっぱりそういうオチですか(笑)

さて、マングローブは木の名前ではないと最初に書きましたが、木の名前は何かといえばヒルギです。

大浦川のヒルギは3種類。メヒルギは背が低くて葉っぱの先がまるいです。背の高いのはオヒルギで葉っぱの先が尖ってます。オスとかメスという意味ではなくて、形が女性的、男性的な感じがするので名前が付いたみたいですね。あと、ヤエヤマヒルギというは、よくマングローブで検索すると出てくる根っこがタコの形になっているものです。


ヒルギは成長が遅く、山に生えると他の木に負けて太陽の光を得ることができないので、海に進出したといわれています。
さらに河口から見て手前の小さいメヒルギは、背の高いオヒルギに負けないように、水際へ、水際へと足場を広げた模様。
波でもポキポキ折れてしまいますが、「小さく」育ちます。

ちょうど今、花の時期でタコウインナーみたいなオヒルギの花が咲いてます。花って言ってしまいましたけど、花ではなく、萼ですね。花は中のほうに綿毛みたいなのがわしゃわしゃあります。今は花が終わってこれから実ができる頃なんですよ。おいしい蜜が出るので、メジロとか昆虫がいっぱい集まってきます。その小鳥や昆虫を狙って、蛇がのぼってきて、潮が満ちてきて帰れなくなってとどまっているのがたまにいます。ウインナーの真ん中から。実ができはじめているの、わかります? これがぽとっと泥に落ちて、刺さって、また芽吹いていきます。刺さらなかったやつは、茶柱みたいに芽吹けるところまで流されていきます。


これはトビハゼのおうち。
下のほうでUの字でつながっていて、出入り口が決まっています。
よく出口から顔を出してるトビハゼがいると聞いて、一同、俄然熱心に探しはじめました。


マングローブの森のなかにいるシジミは手のひらサイズだそう。でも実の大きさは普通のシジミの4倍くらい。マングローブは干潮の時、水が無くなるので、殻のなかに水を溜めるために大きくなったといわれています。西表島には30cmくらいの大きさのものもいます。

土の山は、ザリガニみたいなアナジャコのおうちです。1mくらいの大きな塚に、わずか2、3匹。垂直に穴があって、2m下に住んでいて、夜行性なので夜になると出てきます。黒っぽい泥は掻きだしたところですね。大浦は沖縄本島のマングローブのなかでもこのシャコ塚が一番ある場所です。シャコ塚ができたところから陸地化していって、ヒルギじゃない植物も生えてきます。そうするとヒルギは負けちゃうのでどんどん海のほうに進出していきます。シャコ塚に小さいカニとかが巣穴をつくって、ちょっとしたマンション状態。
このへんの人は食べないですけど、インドネシアとか東南アジアのほうでは、ツメの肉を食べます。大ざっぱな味がするそうです(笑)


大浦のマングローブは保全状態のよさから、1995年に名護市の指定文化財(天然記念物)に指定されましたが、以前はヒルギを切り倒し、埋め立ててしまう計画もあったようです。
名護東海岸の出身で、名護市博物館の初代館長だった島袋正敏(せいびん)さんらが貴重な場所を残そうと運動し、今に至っています。

インドネシアや東南アジアでは、マングローブをを切り拓いてブラックタイガーの養殖場にしています。そういったところは災害に弱くなります。マングローブは津波の押し波をやわらげてくれます。津波は引き波があるので、流された人も引っかかって助かる。防災林の役目もしてます。東日本大震災の時も、古い神社の周りはうっそうとした森がありますよね。それがあったおかげで古い神社は被害が少なかったそうです。


マングローブは泥地。潮が満ちると、成分がどんどん流れ出てきています。それがプランクトンのエサになり、プランクトンが小さな魚や小エビのエサに。それがまた海からやってくる大きな魚のエサになります。
「ここは食物連鎖のスタート地点」という言葉は、万事が潮の満ち引きでできていることを気づかせてくれました。



INFORMATION

魅力を知り、この地域を好きな人が増えることは、風景や自然を守ることにつながります。また体験ツアーで収入を得ることは地域の経済循環につながると考え、「わんさか大浦パーク」では自然の魅力を伝える取り組みをしています。


大浦マングローブロード

開場時間(年末年始除く)
4月~10月:10時~18時(最終入場時間 17時)
11月~3月:年中無休10時~17時(最終入場時間 16時)

入場料(ガイドなし)
大人(高校生以上)360円  子ども(小・中学生)210円 未就学児無料(保護者同伴)

ガイドツアー(要予約)
大人2,000円  子ども(小・中学生)1,000円 未就学児無料(保護者同伴)

*県内割引があります。
入場料(団体10名以上)
大人(高校生以上)) 360円→210円 子ども(小・中学生)) 210円→100円

ガイドツアー(要予約)
大人(高校生以上))2,000円→980円 子ども(小・中学生) 1,000円→500円
ガイド1人 5,000円(6~10名)