山からの養分×東海岸だからこその、世界屈指の多様性。

2019.03.05


「グラスボートは乗ったことあるしー、と思ってましたが、ここは別格!夢みたいでした!」
これは大浦湾でグラスボートに乗った人の言葉です。
グラスボートは船底にガラス板を張った水中展望船ですが、大浦湾のグラスボートは何が違うかといえば、まずひとつめに、全長50m、幅30m、高さ13mがなんと一群体という世界最大のアオサンゴが見られることが挙げられます。


そのポイントに到着した時、船上のひとびとから出た声は…。

おーーー!
わーーーー!
新鮮ーーー!
きれいだねーーーー!
すごーーーーーい!

サンゴという生きものがつくりだした巨大な構築物。皆、まばたきをするのも忘れました。


大浦湾でグラスボートを運航しているNPO法人「ゆがふ世(準備会)」の西原瑠夏(るか)さんによると、これは青くないけれど、アオサンゴ。
砂浜で拾ったというアオサンゴの欠片を手にしながらのガイドです。

このように芯が青いのでアオサンゴと呼ばれているちょっと変わったサンゴです。砂浜に落ちているサンゴってみんな白いですよね。これも表面は白いんですが、浅瀬にある造礁サンゴで色が残るものはアオサンゴの他にはあまりありません。石垣島の白保はアオサンゴの群生地として有名ですね。ただここに皆さんを連れてきたのは理由がありまして、今見えているのは、全部ひとつのアオサンゴなんですよ。ひとかたまり。サンゴって動物なんで、単体のももちろんいるんですけど、群体っていって、同じクローンの細胞を分裂させてひとかたまりで生活している生き物なんです。通常のアオサンゴは1~2mくらい。大きくても10mくらい。ここのはおそらく世界で最大級の大きさをもっているアオサンゴだろうといわれてます。50mの端と端を調べたらほとんど同じ遺伝子。約3千年以上くらいでこの50mの大きさになったといわれてます。


船上の大人たちは、耳も素直に開きつづけました。
西原さんの手には、今度は鮮やかなポリプ(サンゴ個体)の写真。
「これが1個体です。イソギンチャクみたいにやわらかいんです」


サンゴは植物のように見えますが、イソギンチャクと同じグループに属する動物です。
口を一つ開いた袋状の単純な体で、口が下を向いたものをクラゲ、上を向いたものをポリプといいます。

固い殻をもった動かないクラゲみたいなものですね。触手に毒がある生き物なんですよ。毒で生き物を弱らせて食べている。ただ動かないから、それだけじゃエサを捕りきれません。通常は茶色い褐虫藻という植物と共生していて、この藻が光合成をしてくれることによって、浅瀬にあるサンゴは生きています。


ニュースで飛び交う「サンゴの白化現象」というのは、異常な高水温などでストレスを受けると、サンゴがこの共生藻を放出してしまうことによります。

でもまだ生きている可能性があります。2週間ほど耐えて、海水温が下がってきたらまた寒いって入ってくるので、生き残ったりしますね。特にアオサンゴは海水温が上昇したら毎回白化します。でもここは水深15m。体感でわかるくらい冷たいので、上が白化しても下が白化せず、つながってるからまたもとに戻るんじゃないかと思います。3千年の間も自然環境に耐えてきたたくましいサンゴ。ただ同じ遺伝子なので、例えば何かの病気にかかったら、50m一気になくなっちゃう恐れがあるといわれています。


現在の米軍基地建設のための埋め立てによって、土砂が入り、海の流れが変われば、病気にかかって一気に死ぬ可能性も十分考えられます。サンゴは動けないのです。


大浦湾のグラスボートは3つのポイントをまわりますが、2つ目に、ここでしか見られない海の大樹のような光景がひろがります。ハマサンゴの一種です。
アオサンゴ同様、一年間に数ミリ~数センチしか成長しないサンゴで、5m四方という大きさから見て、数百年は生きているといわれています。


3つ目は、前の2つと異なり、若いテーブルサンゴたちがひしめきあって生きるポイントに寄ります。

サンゴは今おとなしいですけど、夜になると触手を出してケンカします。勝ったほうが上、負けた方が下になります。まるいサッカーボールみたいなサンゴは、キクメイシという種類で、毒性の強いサンゴなのでケンカが強いです。テーブルサンゴたちは負けます。でもテーブルサンゴは成長がはやくて1年に15cmとか20cm伸びるので、最終的にはキクメイシをそれ以上成長させないように取り囲んじゃいます。人間以上に生存競争が激しいです。
ミドリイシといわれるテーブルサンゴは成長がはやい分、中味がすかすかなので、折れやすいです。白化現象にも弱いタイプですね。


1997年から98年にかけてサンゴ礁の白化が世界各地に伝染病のように広がったとき、この地のサンゴは死滅しました。

でも大浦湾の特徴として毎年産卵が確認されていて、環境が残っているのはそんな回復するサンゴがいたおかげで、20年かけてこの姿を取り戻した場所なんです。
サンゴの種類があると形もさまざまなので、いろんな魚たちもそれに対応して寄ってくる。多様性というのが大事というのがわかるポイントです。


大浦湾には5,800種類以上の生きものがいて、そのうち260種類以上は絶滅危惧種であるという数字がニュースになりました。比較対象を知らないわたしたちに、西原さんはこうガイドします。

国定公園に指定されているところってありますよね。このへんだと自然ゆたかな慶良間諸島が指定されている。大浦湾よりずっと広い慶良間で3,800種類くらい。有名な小笠原で多分4,000いくつなんですよ。大浦湾ってすぐにでも国定公園に指定されてもおかしくない多様性をもっている地域なんです。


サンゴは、サンゴ礁をつくる造礁サンゴと、単体で生きる非造礁サンゴに大きく分類できます。
米軍基地建設のために国が埋めようとしている海域には、例えばユビエダハマサンゴが100mくらい続いている海域があるそう。

大浦湾の特徴って範囲は狭いんですけど、場所ごとで全然違ったサンゴ礁が見られるんです。多様性は世界でもトップクラスの自然が残っている。同じ緯度のカリブ海の造礁サンゴは70種類くらいしかないそうです。このあいだカリブ海の研究者のかたが来て、アメージング!って言ってましたね。大浦湾は400以上の造礁サンゴがあるんです。グレートバリアリーフと同じくらい。世界遺産に登録して保護すべき。サンゴ礁は小魚が住む大事な場所。小魚を食べに大きな魚もやってきます。大浦湾はゆたかなサンゴ礁が残っていると注目されている場所ですね。世界ではサンゴを今いかに保全して、元に戻していくことに心血を注いでいるなかで……。


多様性のワケは地形がもたらすものなのでしょうか? と質問してみました。

沖縄自体の多様性が富んでいるというのもあるんですけど、やんばる(沖縄本島北部)地域は山からの恵みが流れてくることと、もしかしたら大浦湾は東海岸ということが大きいかもしれないです。本来であれば冬場の寒い風でやられるものもあると思うんですけど、大浦湾は山が受けてくれる。サンゴ礁で囲まれていたり、地形の関係で通常なら淘汰されてしまう生きものも生きていける多様な環境があります。これを残して解明していくことが、人類の未来につながると思います。



INFORMATION

↓2024年3月頃まで施設改修工事のためチケット販売休止

大浦湾グラスボート乗船(事前予約制)

出航時間:毎日10時 11時 13時 14時 15時 (年末年始除く)
所要時間:45分
料金:大人 2,100円 小・中学生 1,000円 未就学児無料(子どものみの乗船はできません)
チケット販売場所:わんさか大浦パーク
集合場所:汀間漁港(チケット購入後、10分前に動きやすい靴でお越しください)
定員:11名(子どもも1名に数えます)