5,800種以上の生物が暮らす大浦湾の多様性。「地上に見えている生きものより、下に潜ってるやつらのほうが多いんだよ」

2019.03.29

今時、国内で新種はあんまり発見されないイメージがあるけど、ここ(大浦湾)ではぽんぽんぽんぽん出てるわけ。


そう話すのは、「ダイビングチームすなっくスナフキン」代表の西平伸さんです。
頭にダイビングチームと付いていますが、ほとんどのメンバーは生物学の研究者。ある人はサンゴの専門家で、またある人は海藻の、ナマコの、寄生虫の、甲殻類の…。研究者という肩書きをもたない少数派は、写真家や猟師などで、いずれもダイビングのスキルは相当高くなければチームには入れないといいます。


自ら発見した新種を世の中に発表できる場が大浦湾にはあり、約20年前に結成されたチームは、大浦湾の生きものたちの情報発信をつづけてきました。


学会などでの発表の一方で、一般の人に向けては、写真展や講演という形で生きものを紹介しています。

最初の写真展は100枚なかったんだよ。60枚くらいだったかな。めざせ1,000点。大浦湾の生きものたちを1,000匹は紹介したいなということでやってきた。でも1,000といったらスペースが足りない(笑)。今はパネルに写真をいくつか貼って、それを85パネルかな。


写真展「ワッター(わたしたちの)海の写真展 大浦湾の生きものたち」は、全国各地から依頼があれば船便に乗せて片道10日の旅に出ます。申し込みが多いので、西平さんの家の敷地内にある展示室はだからいつも空っぽ状態。

それでも写真パネル以外の微少貝の陳列ケースなどを見ながら、西平さんは話してくれました。


両腕を伸ばしたくらいのサイズのガラスケースに、約800種の貝殻。ケースは一つではありません。微少で美しく、見たことも、名前を聞いたこともない貝が、ずらりと並んでいます。
これらのほとんどは、瀬嵩の前浜で西平さん自身が拾ったのだそう。

大浦湾のなかでも瀬嵩の前浜が一番おだやかだわけよ。東浜(あがりはま)だと微少貝が打ち上げられても砂で埋まってしまう。微少貝というのは生き物たちのスタートにとって大事で、ヤドカリなんか海で生まれて陸に上がってくるでしょ。浜に上がった時に、いきなり大きな貝には入れないから、最初にちっちゃい貝がないとだめなんだよ。微少貝がある浜じゃないと生きていけない。ものごとのスタートにとても必要な場所なんですよ。
辺野古(の米軍基地建設)でヤドカリを移動したっていう話があるでしょ。あれはナンセンス。微少貝の環境を守るのが大事であって、ヤドカリを移動しても意味がないんだよ。


展示室にあった「寄生虫人生」という手ぬぐいは、メンバーの一人で寄生虫の研究者が結婚式を挙げた時の引き出物だった(笑)という話に続いてはこんなことを。

森は肥料も何も与えてないけど、すごく肥えているでしょ。実は目に見えない菌類が一番大きな働きをしていいる。例えば朽ちたは木はシロアリが食べて土に還すと言われてるけど、そうじゃなくて、シロアリのおなかの中にいるバクテリアとかそういうものが消化して、栄養としてシロアリにあげてる。シロアリのウンコを木の10倍くらい栄養価の高いものに変えている。
人間も同じ。腸内細菌というのがないと人はまともには生きていけないだろうな。生き物のほとんどは寄生虫を宿している。益になるものも害になるものもって、例えばサナダムシは身体に悪いことは何もしてないんだけど、こいつを飼ってるとアトピーとか皮膚病関係にはかからない。それはサナダムシが生きていくために、宿主をいい状態に持っていくために、病気にかからないようにコントロールしてるんだよ。


はたまたウナギの話になると…。ウナギは淡水魚ではなく、海で生まれ大回遊する生きものなのだそう。

沖縄とか台湾、このへんにいるウナギは北上して小笠原あたりから南下して、海溝沿いにきて、海底3,000mくらいのところで卵を産んで死ぬ。また赤道の流れにのってフィリピンに行って…。だいたい10年くらいで親になって死ぬ。海も空も一定の流れがあって、それが乱れると大きな台風が来たり、海水温が上がったり、サンゴが死んだり。正常な流れがちょっと違ってくると、地球規模で大きな気象変動があったりする。


世界最大級のアオサンゴをはじめ、400以上の造礁サンゴ、5,800種以上の生きものが暮らす大浦湾の多様性は世界の注目を集めていますが、今は米軍基地建設のフロートが張られ、西平さんたちが一番潜りたい場所には行けなくなっています。
汚濁防止の幕が海の流れを止め、泥が堆積しはじめています。

生きものというのは棲み分けがはっきりしているから、きれいな砂地が泥場化すると、砂地の生きものはいなくなる。移動はなかなかできないんだよ。多分死んだんだろうね。


でも、すなっくスナフキンは大浦湾を政治的に発言はしません。公平な立場でなければ適切な情報発信ではないからと西平さんは言います。

地上に見えている生きものより、実は下に潜ってるやつらのほうが多いんだよ。


彼らの写真や言葉で、わたしたちはそれを知ることができます。


INFORMATION

「ダイビングチームすなっくスナフキン」では、「大浦湾の生きもの写真展」の出前を受け付けています。お問い合わせはこちらまで。