「残すこと」が価値となる。久志地域のSDGsと体験プログラム

2022.02.26

地域の人々の生活に寄り添い
暮らしの中心にあるべき”大切な何か”を
みなさんに感じてもらうことが
体験の価値になると思っています

わんさか大浦パーク 団体旅行手配担当 江利川法孝さんより
大浦川上空。川の真ん中にあるのが大浦のマングローブ
わんさか大浦パークは左側の赤瓦の建物、右側が大浦区の集落。

 

名護市東海岸久志地域は魅力の宝庫

久志地域は魅力の宝庫。
青く透き通る海、白く輝く砂浜、力強く息吹く森。
それらをつなぐ役割をしているのが、川・マングローブです。
久志地域には13の集落がありますが、すべての集落には大小の河川が流れ、
人々の生活が、川・水の流れと密接にかかわっていることが深く読み取ることができます。

久志地域の三原区の様子。

≪大浦のマングローブ、マングローブロードについてはこちら≫
▶ヒトとプランクトンと潮の満ち引きと。


コロナ禍の今でも、それら自然の魅力は人を惹きつけ、
癒しや気づきを与えてくれています。

沖縄の「リーディング産業」と呼ばれる観光産業。

沖縄にはコロナ禍以前は年間約43万人・約2,500校の修学旅行生がやってきていました。

修学旅行も含めた、観光産業は県産業のリーディング産業とも呼ばれ、
約13万人が従事していると言われています。
青い海、青い空、特色のある食べ物・文化など、
沖縄という地理的・歴史的の魅力が多くあり、
「観光の島」というイメージは周知の事実です。


そのような状況の中で観光開発が進み、
人の活気に包まれる地域もあれば、
それらの波に飲み込まれ、
その地域が持つ古き良き伝統や資源を消滅させてしまう地域も
出てきています。

地域の宝物を守ることの価値とは。社会の変遷と大浦のマングローブ林。

2021年に沖縄本島北部の「やんばる」と呼ばれる地域は、ユネスコ世界自然遺産に登録されました。
これらはそこに住む方々がその自然環境を守ってきたからこそで、
日本全国で見ると、「日本で最後の自然遺産になるのではないか」と言われるほどです。


「残すこと、守ること」が価値となる。
それは、この自然遺産登録のずっと前から久志地域にあった考え方です。

修学旅行での体験コースの1つとして恒例の「マングローブカヤック」ですが、
大浦でのマングローブは「人と自然のつながり」に、他の地域との違いがあります。

現在名護市の天然記念物と指定され、年間約5千人が訪れる大浦のマングローブ。
今は観光資源となっていますが、昔は地域の暮らしの資源のひとつでした。


40年以上前の大浦川周辺の様子

この時代は農耕社会(Society2.0)と呼ばれ、
地域の自然資源の恵みを享受し、その恩恵に畏敬の念を抱いていました。

内閣府より


この時代に形成された伝統文化や行事が、久志地域では多く残されています。


≪久志地域の伝統行事についてはこちら≫
▶伝統行事がすごい。名護東海岸「久志地域」の魅力。【前編】


その後、工業社会(Society3.0)~情報社会(Society4.0)と呼ばれる時代になると、
切り開ける土地の少ないこの地域では、
大浦のマングローブを埋め立てる土地改良計画が立てられました。

大浦川河口マングローブ林の変遷。
大浦マングローブ林体験学習施設基本計画策定業務報告書(名護市)より
1945年ごろはマングローブが木材として利用されていたというお話があります。


昭和55(1980)年に、地域の方々と文化財保存調査委員会が、大浦のマングローブの価値を訴え、保存を要請しました。
それを受け、土地改良計画が変わり、マングローブが埋め立てられないことになりました。

そして15年後の平成7年(1995)年に名護市教育委員会により文化財(天然記念物)に指定されました。

2020年の大浦マングローブ


当時マングローブの価値を訴えていた地域の方々のひとり、島袋正敏さんはこのような言葉を残しています。

この21世紀は、人々は都市や街から本物の豊かさを求めて田舎へ向かう世紀になる。
いつまでもひたすらに頂を目指すのではなく、人々は下山の途につき麓にある「宝物」に気づき始めている。
「宝物」をいつまでも守り抜くことが、やがて千億に値する指数を生むはずである。
こういった価値を提唱していく組織となることが、久志地域のみならず日本全体の地域の価値を高めていくことにつながると考えている。


NPO法人久志地域観光交流協会 設立趣旨より


こうして守られてきた大浦のマングローブ。
こいった事例はどこの地域にもあるのではないでしょうか。


そしてSociety5.0と呼ばれる時代に突入している現在、
大浦のマングローブ周辺では「持続可能な社会」を目指した取組を行ってきました。
平成26(2014)年に大浦川は、保全利用協定締結地域として沖縄県に認定されています。
沖縄県内で認定を受けているのは現在10か所のみ。

保全利用協定は、「保全」と「利用」双方のバランスをとりながら、次世代に豊かな自然・文化を継承し、同時に観光産業の持続的な発展を図る制度です。

保全利用協定とは、「環境保全型自然体験活動(エコツアーなど)を行う場所の適切な保全と利用を行うために、地域住民・関係者からの意見を適切に反映しつつ、(ガイド業など)事業者間で自主的に策定・締結するルール」のことで、この協定について、県が適切であると認められるものについて、県知事認定を行っています。

沖縄県HPより


大浦のマングローブでは実際に、
自然に負荷を与えない適切な参加人数を設定したり、
事業者間でのルールを設定し、定期的にモニタリング・清掃を行っています。
また、参加費の一部は「環境協力金」として地域に還元しています。

オーバーツーリズムという言葉が県内でも聞かれるようになっている昨今、
大浦のマングローブでは、地域の自然資源の「保全と利用」のバランスを考え、
地域の自然も事業者も「持続可能」な仕組みを導入しています。

大浦川は観光地だけでなく、地域の子ども達も遊ぶ身近で大切な場所です。

 

「SDGsの体験活動を提案してほしい」という声に、久志地域では。


ここ数年で「SDGsの体験活動」について多く問い合わせを頂いています。

そもそもSDGsとは?

持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは、
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,
2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。

外務省HPより

MDGsが一部の人達の取組に留まってしまったことから、
「誰一人取り残さない」がテーマとなり、メディアや経済界、
そして教育業界でも積極的な取組が見られます。

久志地域に目を向けると、過疎高齢化が進む課題が多い地域において、
地域の持続性を考えた取り組みや、課題にチャレンジする事業は普段から多く行われてきています。

「SDGsの体験活動」とは、
こういった地域活動を始めとした日々積み重ねられている持続性に関わる事業が
自分事になったり、自分の住む地域に帰って活かせるようになること、ではないでしょうか。

地元緑風学園のふるさと学習にて、地域の子ども達に大浦のマングローブと暮らしに関する授業を行っています。

 

沖縄での修学旅行、2泊・3泊の中で何を学ぶか・何に気づくか、その場をいかに作れるか


修学旅行生の沖縄の滞在は、平均して3~4日。
平和学習、国際通りでの自由散策、美ら海水族館、民泊、、、など
たくさんの体験の中の一部として、体験活動を半日程度取り入れられることが多いです。

体験といえども、
バナナボートに代表されるようなアクティブ系体験、
アンダギー作りや三線体験などの文化系体験など多岐にわたります。

そういった沖縄ならではの体験から、修学旅行生にどんな気づきを見つけてもらえるか。
修学旅行は、お楽しみの旅行でもあり、学びの場でもあります。

大浦マングローブ林内の様子

久志地域に特別な観光地はありません。
ただ、地域の方々が大切に守ってきた自然と人の暮らしが、
自然環境の多様性と豊かさを残し、他にはない学びの宝庫となっているのです。


≪大浦湾の多様性についてはこちら≫
▶5,800種以上の生物が暮らす大浦湾の多様性。「地上に見えている生きものより、下に潜ってるやつらのほうが多いんだよ」


沖縄県内でも魅力的な地域はたくさんありますが、
このようにあまり観光地化されなかったからこそ、
小さな地域で様々な分野の事業者が垣根を越えて繋がり、
ひとつのプログラムを作る取組が進んでいます。

「地域の自然を学び、守り、次世代に繋げていく」
SDGsをきっかけに、他業種の連携が生まれ、地域で各々ができること、繋がれることを考え、プログラムを作っていく。
こういったパートナーシップこそが、SDGsの取組のひとつと言えます。

SDGsは学ぶだけでなく、その取り組みの一員になることが大事だと思っています。

久志地域でのSDGsの取組を、修学旅行の体験活動を通して生徒さん達とも共有していきたいと思っています。

大浦のマングローブ散策の様子。
BGMは地域の民謡「二見情話」
二見情話についてはこちら≪ 二見情話の里。大切に唄い継がれる理由 。≫

 

Information

わんさか大浦パークでは団体旅行及び修学旅行の受入を行っています。
お問い合わせは ≪こちら≫ よりお願いいたします。