地域の課題を学びに変える。シークヮーサーを題材にした「ふるさと学習」。

2021.11.12

名護市の東海岸に位置する久志地域。
その北側の10の集落が二見以北10区と呼ばれています。

市街地から離れた豊かな自然が残るこの地域には久志小、三原小、嘉陽小、天仁屋小、久志中学校の5つの小中学校がありました。
これらの小中学校が統合し、公立学校施設一体型では沖縄県初となる、小中一貫教育校「緑風学園」が開校し、2021年で10周年を迎えました。

緑風学園の校舎。

緑風学園の特色として、9年間を通した「小中一貫教育(4-3-2制)」や、
教育課程特例校制度を導入した小学1年生からの「英語教育」、
複式学級を避けるために市内全域から児童生徒の受入を行う「小規模特認校制度」などが挙げられます。

今回はそれらの特色の中で、地域資源を生かした地域学校協働活動(※1)である「ふるさと学習」のひとつをご紹介します。

地域の「食」について学ぶ、小学5年生。

緑風学園の小学5年生では、地域の「食」をテーマに「ふるさと学習」を行っています。

久志地域の嘉陽区での稲作について、地域の方から学んでいます。

かつては県内屈指の米どころであった久志地域の嘉陽区では、
稲作文化やそれに伴う伝統行事について地域の方から学んでいます。


▼嘉陽区の田んぼと伝統行事についてはこちら
https://nago-east.com/crops/930


実際に昔から使っている田植え用の器具「正条縄」を使った田植えについてや、
嘉陽の稲作文化を歌った「稲作節」の歌など、
地域に根付いた稲作文化について学びます。

嘉陽区の伝統行事、豊年祭で踊られている「稲作節」

今年度は学校内にあった枯山水を田んぼにリニューアルして、学校でも田植えを行いました。
排水や土づくりなど、地域の方々にたくさんご協力を頂いて無事に実施し、収穫まですることができました。


お米だけでなく、島野菜について学んだり、久志地域の伝統野菜「二見あかカラシナ」も実際に育てています。

▼「二見あかカラシナ」のふるさと学習についてはこちら
https://nago-east.com/crops/1051


その他にも自然体験学習では、地域の自然体験施設「じんぶん学校」にて、昔ながらの方法で沖縄料理を作る体験も行っています。

じんぶん学校にて、豆からゆし豆腐を作っている様子。


地域の農業の課題に目を向けた、シークヮーサー。

「食」を切り口に学べることはたくさんありますが、その中でも地域課題に目を向けた授業もあります。


様々な経緯で供給過多になり、地域では「余りがち」なシークヮーサーについても題材として取り上げています。
▼シークヮーサーの地域課題についてはこちら
https://nago-east.com/crops/1225


まずは座学でシークヮーサーの現状について学び、

話で聞くだけでなく、足元の地域の現状に目を向けられるよう、
自分の住んでいる地域にはどれくらいシークヮーサーの木があるか、
自分たちの足で調べます。
そしてその情報を持ち寄り、「推定〇〇kgのシークヮーサーがある!」ということを試算してみます。

そしてシークヮーサー畑では、農家さんからお話を聞き、実際に収穫します。

どれくらい収穫できたか重さを測り、

用意していた25kgの秤では測れず、保健室の体重計で測りました。

自分の手で絞って、絞ったら果汁がどれくらいになるかも測ります。

こうして、1杯のシークヮーサージュースを作るのに、どれだけの労力がかかるのか、身を持って学びます。


実はこの授業、子どもたちの学びで終わらない「三方良し」の仕組みがあります。


①シークヮーサーの木を持つ「農家さん」
収穫させて頂いた畑の農家さんは高齢で、収穫しきれない部分を収穫させて頂いています。
収穫する手がなく、本来は捨てるだけ、又は木に実ったまま放置されてしまうはずだったシークヮーサーが救われます。


②直売所「わんさか大浦パーク」
収穫したシークヮーサーは、わんさか大浦パークにて買い取って頂いています。
人気の自社商品「シークヮーサージュース」の原材料となる地域のシークヮーサーを、より多く集めることができます。


③シークヮーサーの「木」
柑橘系の木の特徴ですが、実った果実を収穫しないと次年度の実なりが悪くなってしまいます。
子ども達が収穫することによって、来年また実をつける木となるのです。


子どもたちにとっては学びになり、関わる地域の方々のメリットが加わっている授業となっています。
また地域の方々からの「ありがとう」が、子ども達の達成感にも繋がっています。


もちろん、毎年同じ形で授業ができている訳ではありません。
シークヮーサーの木の状況(立ち枯れ、水不足など)、
学校の状況(今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で授業に大幅な変更がありました)、
様々な状況に合わせた内容の変更があります。

だからこそ、毎年同じ学びはなく、先生方と地域の方と一緒になって、目的に向かって、その時にできる授業内容を作っています。

収穫の際には地域の方から竹かご(バーキ)をお借りしています。
授業の趣旨を説明してお願いすると、皆さん喜んで貸して頂けます。


地域が学校の教育に「協力」するだけでなく、「協働」となっている「ふるさと学習」の授業をご紹介でした。

こういった授業の積み重ねが、緑風学園コミュニティ・スクール(※2)の理念でもある「ふるさとを愛し、たくましく生き抜く、緑風の子の育成」に繋がり、持続可能な地域づくりとなっていくのだと思っています。


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※1 地域学校協働活動とは
「地域学校協働活動」とは、地域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関等の幅広い地域住民等の参画を得て、地域全体で子供たちの学びや成長を支えるとともに、「学校を核とした地域づくり」を目指して、地域と学校が相互にパートナーとして連携・協働して行う様々な活動です。
緑風学園は令和2年度 「地域学校協働活動」推進に係る文部科学大臣表彰を受賞しました。

※2 コミュニティ・スクールとは
保護者や地域住民が学校運営に主体的に関わることができる学校のことです。
そのために「学校運営協議会」という組織を設置している学校のことをコミュニティ・スクールと言います。この組織があることで、学校運営に地域の声を生かすことができ、地域と一体となって特色のある学校づくりを進めることが出来ます。
緑風学園は平成30年度よりコミュニティ・スクールを導入し、「ふるさとを愛し、たくましく生き抜く、緑風の子の育成」を理念に活動しています。